SSブログ

人生における労働の位置づけ 3 [日記・雑感]


スポンサードリンク

まずは数字で見ます。
画像1.jpg
図1 国民1人当たりGDP=国民総生産÷人口


画像2.jpg
労働生産性=GDP÷就業者数(または就業者数 × 労働時間)



悔しいことに、日本は明らかに欧米に負けています。
なんと、旧東欧諸国程度です。

 果たして、私が指摘した「消費者重視」「労働者の権利」というキーワードが決め手になっているかどうかはあいにく論証できませんが、働いている人に余計な負担をかけてその動きを妨げないようにしよう、という意識は共有化されています。
例えば、スーパーマーケットの商品陳列です。当地のスーパーはおおむね午前7時40分に開店です。私を含め、多くの買い物客が入店しますが、そのときに同時に店員たちが新しい商品を置くから運び入れ、陳列を行っています。日本ならば客の買い物の邪魔をしないように店員が配慮しますが、こちらでは客が店員の動きを妨げないように気をつけて行動します。店員のカートにうっかり気づかずにいると、「Achtung!」と声をかけられます。直訳すると「注意!」という意味ですが、要するに「そこをどいてください!」です。床磨きの機械で営業時間中に定期的に清掃をやっていますが、これも同様です。機械の音が聞こえたらその動きを予想して、彼の清掃を妨げないように客が移動します。慣れないうちは、「客をいったい何だと思っているのだ。」とムカッとしましたが、店員の仕事が円滑にできるように気をつけてあげましょうよ、ということなのですね。
 つまり、雇用者側がその権利を守るだけでなく、客の側も同様に配慮するわけです。

労働者の権利をきちんと認め、保護するために、そのかわり仕事の成果も厳しく問われます。したがって、仕事をするときはものすごく集中してこなし、それとともにプライベートも大切にするという意識が常識となっています。会社への忠誠心はありますが、それとプライベートの時間を割いてまで仕事をすることとは違うのです。オーストリアでは長時間仕事をすることが評価にはつながらず、遅くまで働いているとボスに「何をしているんだ?」と言われてしまいます。集中して時間内に仕事をこなすために物事の決定を早くして、現場のキーパーソンによってどんどん進められます。まとまった休みを年に合計5~6週間取得するのは普通のことです。知り合いのモンクレールの店員はつい店が暇になるこの時期に一ヶ月の休暇を取り、そのうち二週間はハワイで過ごすと言って出かけていきました。

別にみんながそのような贅沢な過ごし方をしているわけではありません。手軽な楽しみ方として、カフェで友人とおしゃべりをするというのがあります。
ウィーンのカフェは、カフェの一種として、2011年から世界無形文化遺産に登録されています。特徴は、滞在時間が長いことと、単にコーヒーを急いで飲むのではなく、社会的・社交的な側面があることです。老舗の喫茶店は、内装が上質で、時には文化的なプログラムもあることが多いです。伝統的な喫茶店は、モダンなカフェやコーヒーショップなどの他のタイプよりも明らかに好まれています。2017年末に行われた調査によると、ウィーン人の合計75%が月に1回以上、喫茶店やカフェを訪れ、8%の人はほぼ毎日でも訪れているそうです。ローテーションで休みを取っている人が多く、必ずしも土曜日日曜日がお休みではないため、平日の昼間からカフェにお客が多いというのもあります。

 また、サイクリングを趣味にしている人たちがものすごく多いです。アルプスの秘境からウィーンなどシティーコースまで、さまざまなコースがあり、週末には国内至る所がサイクリストで賑わいます。
主なものだけでも21もあり、舗装された平坦な自転車専用道路から上級者やマウンテンバイク向きの山岳道まで極めて多彩です。例えば、ブルーデンツを起点にドイツ側あるいはスイス側のボーデン湖畔を行く平坦なコース、ドナウ川に沿って整備された快適なサイクリング道を走る一番人気のポピュラーなコースなど多様な自然の景観を楽しめます。中には、ワイン酒場を周遊するコースなんてのもあります。

こうした国内各所のサイクリングロードに行くために、電車には自転車持ち込みができる車両が通常準備されています。また、地下鉄でさえ、朝夕の通勤時間帯を外せば自転車の持ち込みが許可されています。さらに、サイクリング・ホテルやレンタル、手荷物輸送サービスなども充実しています。
また、ウィーン中心部の通常の道路にも、自転車専用道が設定されていますから、自転車通勤もたいへん多くなっています。

自転車が好きな人たちは自分好みに仕上げた自転車に自分好みのウェアでまたがっています。通勤時間は実は趣味の時間でもあるようです。昨年ドイツ語学校に通っていたとき、もうすぐ60歳になるという女性の先生が、「私の趣味は自転車です」といっていて、ときどき自転車でも職場に通っていました。

市庁舎の広場で自転車の「のみの市」が時々開催されますが、かなりの人たちが集まります。

不要になった自転車を持ち込み、思い思いの価格を付けて販売しています。売却できた場合、販売価格の一定割合を手数料として主催団体に支払う仕組みになっています。付けている値札も、各人が準備した適当なボール紙にマジックペンで書き込んで、自転車にぶら下げています。笑










しかも、「この自転車、どう見ても、このままでは走れないだろう?」というものさえ持ち込まれています。買ってもどうするのだろうといぶかしく見ていましたが、よくしたもので会場内には修繕してくれる業者もブースを構えていました。もちろん、自宅に持ち帰り自分のガレージで直す人も多いのでしょうが、会場で直してもらい、そのまま乗って買えることも出来るのですね。ただ、意外なことに動きそうもないオンボロを自分で持ち帰る人たちが珍しくなかったのが印象的です。自分で直したり、部品取りに使ったりするのがごく一般的なのでしょうね。そういえば、ホームセンターで販売しているDIYの道具が、ほとんどプロ仕様のものばかりなのに、普通のおじさんが購入していますから、特別なことではないようです。

なお、昨年の東京オリンピックでオーストリアの女子選手が金メダルを獲得しました。
世界ランキング94位のオーストリア代表アナ・キーゼンホファーという選手です。
94位という数字から番狂わせと言われましたが、それ以上に興味深く扱われたのが「数学者」という職業です。
 本職を別に持つ選手が国内代表に選ばれるだけの練習が出来る余裕が社会全体にあります。日本でも実業団の選手がオリンピック代表選手に選ばれるのは珍しくありませんが、彼らは「会社員」ではあっても実体は競技のセミプロです。それにひきかえ、彼女は2018年以降プロ契約を結んでおらず、コーチもスタッフもいないし、食事の管理やトレーニングの計画なども自身で行ってきています。冬季オリンピックはともかく、夏季オリンピックではまったく振るわないヨーロッパの山間の小国オーストリアですが、自転車は競技人口の裾野の広い国です。必ずしもあり得なくはなかったと思っています。と同時に、人をひたすら労働のみに縛り付けない「労働者の権利」意識が社会に共有されていたことの影響をどうしても思わずにはいられないのです。
 これと似たようなことが妻の本職の音楽にもあります。一緒に働く同僚たちの中には、警察官、学校の教師、不動産管理業者、タクシー運転手など他に職業を持っている者がたくさんいると聞きました。中には、それらを辞めて音楽を本職とすることになったり、逆に音楽よりも別の仕事の比重が増えて、音楽の仕事は控えるようになったりと、非常に流動的です。
やってみてよければ転職、ダメなら次を探そう、という身軽さを許容する社会でもあると言ってよいかと思います。

 日本の「消費者保護」それ自体は決して悪いことではなく、むしろ「労働者の権利」との二項対立にすべきではないと前に書きましたが、それにしても、労働にまつわることをもっと明るく、軽く、さわやかにしていければ、日本もかなり違ってくるのではないかと思います。残念ながらさらなる具体策は提示できないのですが、まずはこのようなことを考えています。













nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

人生における労働の位置づけ 2 [日記・雑感]


スポンサードリンク

一つは、「消費者重視」と「労働者の権利」についての温度差だと思います。
「国民」は、子供や老人を別にすると、おおむねこの両面を兼ね備えています。収入を得る勤労の場では労働者ですし、生活に必要な支出をする場では消費者です。どちらもないがしろにできない大切な観点であることに異論はないと思います。
しかし、日本とヨーロッパには温度差があります。どちらかというと、日本は消費者重視に重点が置かれていますし、ヨーロッパは労働者保護に振れています。もちろん厳密な二項対立ではなく、あくまでも色味としてどちらよりになっているか、という意味です。

ANAやJALの機内サービスに慣れていると、ルフトハンザ、オーストリア航空、スイス航空、ブリティッシュエア等の機内サービスは驚きものです。エールフランス、アエロフロートなどは論外です。日系航空会社は客の求めているもの・サービスを察して提供しようとしていますが、ヨーロッパ系は決められたまずはマニュアル通りに提供し、それ以上のサービスは基本行わない、必要ならばはっきりと要求しなさい、というものです。客との対応も日本人からするときわめてドライで、要求しない限りそれ以上の要望は持ってないと判断する、という対応です。

スーパーマーケットの店員も全く同質で、品物がどこにあるのか質問しても表情も変えずに「隣の列です」程度の返答しかしません。レジの店員も同様で、客が挨拶しても無視、無表情でお金をやりとりする程度というのもありきたりです。飛行機のCAはたまには笑顔を見せますから、スーパーでは「ひょっとして人種差別ではないのか?」と悩むこともありました。でも、これはただ単に、CAは業務として笑顔をつくる訓練をやっており、スーパーではそれは求められていないからやらないというだけのことなのですね。店員からすると、誰に対しても同じように普通(無愛想)にやっているだけだ、ということみたいです。

郵便局の窓口の件については、さすがに「それはあんまりないけど、郵便局員だったらやってもおかしくないなあ」と現地の知人は言っていました。やはり、役所、公務員のような仕事はそれが目立つようです。しかし、終了時刻になったら窓口を閉めたとしても、誰も文句は言えない、とも付け加えました。決められた刻限までに提出できない客の対応を繰り返していたら、誰も時間など守らなくなる。必要な対応だ、と。

労働者は、自分の仕事を規定された範囲内で行う。無償の善意でそれ以上のことを提供しないし、また要求しないという原則が明確に確立しているのがヨーロッパです。日本では「お客様のために」多少無理をするのが期待されており、その期待に応えることが無言のうちに求められています。それが美談になることもありますが、働く人を疲弊させる一因にもなっているように思われます。

空港での乗り継ぎ失敗の件です。
オーストリア航空、ルフトハンザ航空に対して、私は恨み言を言いたい気持ちになっていました。困っている自分を助ける義務があるはずだ。乗り継ぎに間に合わなかったのは、飛行機が遅延したためだ。自分の責任はないのだから、当然じゃないか、と。
 実際その通りではありますが、実はここに論理の飛躍がありました。自分でも書いているとおり、飛行機の遅延は日常的なアクシデントです。決して特異な事故・事件ではありません。したがって、航空会社ではその対応を事前に決めてあります。だったら、飛行機に乗る前に自分で調べておけばそれで慌てずに対処できたわけです。むしろ、飛行機を利用するのだったら、そんなことはヨーロッパでは常識だったのではないか、と最近は考えています。事実、あの日がらんとした空港ビル内をとぼとぼとさまよっていたのは、私ぐらいなものです。笑 同じ便でウィーンから飛んできて、乗り継ぐことになっていたお客は私以外にもいたはずです。かなり大幅な遅延でしたから、次の便に搭乗できなかった可能性は高いのです。だから、彼らはわたしより手早く適切な対処を行って、必要だったら宿泊するホテルの手配もさっさとすませたと考えるべきでしょう。
 
ヨーロッパはごく狭いエリアです。彼らにとって、域内の移動は私たち日本人が国内移動するのとさほど変わらない感覚です。こんなのは、取るに足りないありふれたアクシデントなのだろうと思います。

画像3.jpg

しかし、わたしはこの程度のアクシデントに、いわゆる日本的な「フルサービス」の対応を求めたわけです。だから、航空会社の窓口が閉まっていることに腹を立てた。どうすべきかあらかじめ理解しておくのがここヨーロッパの常識だと知っていれば、別に腹を立てる必要はなかった。わかってみれば、簡単な話です。ロストバゲッジの空港職員やルフトハンザカウンターから出てきた職員が言いたかったことをまとめると、次のようなものだと思うのです。

「この程度の遅延は日常的で、航空会社の対応は決まっている。飛行機を利用するあなたはそれを知っているのが当然である。しかし、見るところあなたはそれをわかっていないようだ。だから今、自分ができる範囲内で手助けをしてあげます。しかし、いかにあなたが困っていようと、私は私が出来る範囲内でのみ助けるのであり、その困りごとが解決できるまで自分の職権を超えて無制限に手助けできるわけではない。私の提供できるヘルプで不十分な部分は自分で何とかしなさい。」
 
 消費者保護は重要でありおざなりにはできないが、労働者の権利も重要である。
その落としどころが、上述のようなあたりだと彼らは態度で示していると考えました。
日本だと、「客を放り出して自分だけ帰宅した」と非難されかねない対応です。しかし、ヨーロッパではあえてそちらに重みをおいている。まさに文化の違いです。

その結果、どのようなメリットが生まれているのかを次回でまとめます。


nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

人生における労働の位置づけ 1 [日記・雑感]


スポンサードリンク

 オーストリアに長く住むようになって様々な違和感を体験してきましたが、生活の場面で遭遇することなので「そんなものか」でやり過ごしてしまうことが多く、あまり深く考えてきませんでした。
その中でも印象的な事例を二つほど書いてから、先に進めます。ひょっとしたら、すでに書いたこともありますが、論旨を進める上で必要なので、おつきあいください。

 一つ目は、妻の体験です。
あるとき妻が宅配便を受け取るために郵便局に行きました。日本では不在時には再配達という仕組みがありますが、こちらではそうした仕組みはありません。一時保管されている郵便局や委託されているお店に、自分が足を運んで受け取る仕組みになっているからです。受け取るための書類にサインする必要があって、窓口の脇のテーブルでその書類に目を通して、さあ書き込もうと思った瞬間にガーという音がしたのでびっくりして振り返ると、さっきまで開いていた窓口のシャッターが閉まっていたと言っていました。時間になれば容赦なく閉めます。笑 つまり、「決められた時刻になったから、もう受付はしない。また、明日来てね!」という意味なのですね。日本だったら、「もう受け付け終了時刻だから、明日来てください。」ぐらい入店時に伝えるはずですが、そういう対応もないのですね。

2つめは乗り継ぎ失敗の顛末です。

1.本来の帰国予定
  7月21日(土) オーストリア航空 OS155 ウィーン 17:40発
                    デュッセルドルフ 19:15着

  7月21日(土) 全日空 NH210 デュッセルドルフ 20:00発
                 成田       14:30着

2.実際の搭乗
  7月21日(土) オーストリア航空 OS155 ウィーン 20:00発
                    デュッセルドルフ 21:20着

  7月22日(土) 全日空 NH210 デュッセルドルフ 20:00発
                 成田       14:30着

つまり、帰国が丸一日遅れました。
どのようにしてこのような事態が発生して、どのような対処をしたのかは、以下の通りです。

21日(土) ウィーンでの搭乗は滞りなくできました。
わたしはもともとすべての行動に関して、余裕を持つようにしていますので通常通りです。
空港での免税品を購入することに関して、まったく関心を抱いていませんから、搭乗ゲート付近で空港の無料Wi-Fiにスマホをつないで、なんとなくネットサーフィンをしていました。

機内で着席するとき、夫婦連れの客から座席を交換してほしいと頼まれました。
22Aの夫が23Aの私と交換すると、なるほど二人が並んで座れます。同じ窓際同士であり、彼らも受けてもらいやすいと判断したのでしょうね。わたしは快諾しました。

22Bと22Cは若いドイツ人女性の2人連れでした。わたしたちのやりとりを見ていて、やさしいのね、というような表情で私にほほえんでくれました。これは印象的でした。
なぜかというと、オーストリア人の場合、このような状況では男女に関わりなくおおむね無表情でいることが多いのです。
別に冷淡というのではないのでしょうが、自分にとって関係がない出来事について関心を示さないのが通例です。特にウィーン市内では普通です。
したがって、今回のように自ら笑顔を向けてくることなどまずありません。
新鮮な驚きでした。
(しかも、20代前半のすごくきれいな2人だったのでなおのこと印象に残っています、
というのは、妻には内緒です。笑 ヨーロッパでも日本と同様に、きれいな女性はごく少数です。)

本題に戻します。

そんなやりとりのあと、わたしはぼんやりと外を眺めていましたが、雨粒が窓に目立つようになりました。そして、それはあっという間に激しい雨に変わりました。稲妻もきらめいていました。

機長から30分ほど離陸を遅らすとアナウンスがありました。
CAに乗り継ぎ便のチケットを見せながら、どうしたものだろうと質問はしてみましたが、
「どうしようもない。デュッセルドルフの地上職員に尋ねてほしい」という返答でした。

彼らの職権とは異なるものですから、予想された返答です。
しかし、万が一ぎりぎり間に合うかどうかのタイミングで到着したら、先に下ろして
くれることもあるから、ひとまず知らせておこうというのが動機でした。

しかし、その30分後には空港が閉鎖されて、離陸はさらに遅れるとアナウンスがありました。もはや乗り継ぎは絶望的です。

隣の女の子が話しかけてきました。
彼女たちはウィーンで休暇を楽しみ、これから自宅のあるデュッセルドルフに帰る
ところだと言っていました。

わたしが日本人であることはすぐにわかったようです。東京には友人が住んでいるとも言っていました。デュッセルドルフには多くの日本人が住んでいるので、日本人とは何らかの接点があったのかもしれません。
わたしのつたない英語でも十分にやり取りが続くくらい、彼女の英語は明瞭でわかりやすかったのを覚えています。

デュッセルドルフ到着後、彼女たちに別れを告げ、わたしはオーストリア航空のカウンターに向かいました。

しかし、誰もいません。

オーストリア航空に限らず、航空会社のカウンターには誰もいないのです。
いや、そもそも空港自体に人気がない。
到着便の出口に迎えの人たちがひとかたまりいるだけなのです。

しかたなく、インフォメーションに向かいました。
搭乗券を見せながら、どうすべきかを尋ねたところ、まずは機内預けのスーツケースを
AHSで受け取ってくださいと指示されました。後で調べたところ、ロストバゲージを扱う
部門のようです。今後どうすべきかもそこで教えてくれるだろうとのことです。

AHSでは、入り口のブザーを押すと、大きな台に搭乗券とパスポートを置くようにインターフォンから指示されました。
上を見るとカメラが取り付けてあり、わたしの顔とパスポートを照合していました。
中で再び搭乗券とパスポートを提示しながら、オーストリア航空の遅延により乗り継げなかった旨を伝えたところ、わたしのスーツケースを運んできました。
それを受け取り、今後どうすべきかを尋ねたところ、航空会社のカウンターに行けと
いう指示でした。
今行ってきたところだが、誰もいないと答えたのだが、指示は相変わらず「行け」です。
なんでもオーストリア航空の窓口業務はルフトハンザがやっているから、そこで対応してくれるはずだというのです。彼にとって、この対応はマニュアル通りなのでしょう。
言い争っても仕方ないので、再びカウンターに向かいました。

航空会社のカウンターには当然のごとく誰もいません。たまたまオーストリア航空の親会社のルフトハンザの職員が帰り支度を済ませて奥から出てきたので、これ幸いと尋ねました。これで何とかなる、とほっとしたのは事実です。今夜の宿と明日のフライト、一気に解決です。

この対応は、今でも一言一句思い出せるほど明瞭に記憶に焼き付いています。

彼は一瞬、同情めいた表情を見せた後すぐに笑顔に戻しました。
そして、
「そいつはたいへんだったなあ。まあ、明日カウンターが開く頃にまた来てくれ。ホテル?自分で探してくれ。なに、レシートを持ってきたら金は航空会社が払うよ。じゃあな。」
と、陽気に言い放ちました。

おいおい、天候による遅延は仕方ないかもしれないが、どうすべきかをアナウンスしたり表示したりすることもなく、客を放り出してみんな帰ってしまうなんて、ちょっとあんまりじゃないか、と怒りがこみ上げてきました。
しかし、今は怒っている場合ではありません。
今夜の宿泊場所と新たなるフライトの確保が最優先です。
しかたなく、先ほどのAHSで再び尋ねるしかないので、きびすを返しました。

途中、機内で隣にいた二人連れの女の子に出会いました。どうやらサンドイッチか何かで簡単に食事をしていた様子です。二人と少しおしゃべりをしました。今更急いでも事態は大きくは変わらないだろうと直感的に感じていましたので、むしろ落ち着いていました。
二人は、幸運を祈ると言って、手を振りながら去って行きました。彼女たちが本気で心配してくれたことだけでも、少し心が温かくなりました。
 AHSに戻ると、今回はパスポートと搭乗券の提示無しにすぐにドアを開けてくれました。
そして、
「カウンターはもう閉鎖されていたよね、明日の朝5時以降に来てくれれば次のフライトは取れるよ。ホテルは自分で取ってね。」
と、先ほどとは打って変わって笑顔の対応です。

笑顔はありがたいが、要するに、すべてDo it yourself なのだ。
長い夜になると観念しました。

これまでにもフライトの遅延で乗り継ぎがうまくできないことは、日本では経験してきています。飛行機の遅延はごく日常的です。天候が原因となる遅延などそのなかでもあまりにありふれています。
しかし、日本では到着した空港カウンターに行けば、どんなに不親切な対応であれ、次のフライトやその日の宿泊に関して手配してくれました。

ところが、今夜はそうはいかない・・・・・・・

「この近くのホテルは、どのあたりにあるのだろう?」
AHSの係員に尋ねてみました。
「2つほどあるよ。どちらも値段はほとんど変わらない。」
わたしの窮状を察してか、さっきまでのぶっきらぼうな応対とは打って変わり、ネットで調べてくれました。親身な気持ちが伝わってきました。

ありがとう、と礼を述べ、わたしは外へ出ました。
スーツケースとキャリーカートの2つを転がしながら、最初に目についたホテルの案内表示をたどって歩きました。

それは、Maritim Hotelでした。
受付の彼は端末をたたいたが、すぐに、満室です、と申し訳なさそうに答えてきました。近くに、Sheraton Hotelがあるので、そちらも試してみたらどうですか、と付け加えた。すぐそこですよ。

教えてもらったとおりに歩くと、Sheratonはすぐでした。しかし、ここも満室でした。

Maritimには、訊いてみましたか、と尋ねられました。だめだった、と答えたところ、受付の彼は自分が知っているホテルをあたってみようかと提案してくれました。
それはありがたい、とわたしはその申し出を受けました。
彼が探してくれたのは、空港からタクシーで12ユーロほどのところにある
ホテルでした。
「From Sheraton」
これだけで、次のホテルではすぐに通じて、323号室のカギを渡してくれました。
話が通じているというのはありがたいことです。

すでに23時半になっていましたが、まずはビールを一杯飲みたかった。
階下におりて、バーのカウンターで白ビールを頼みました。

画像4.jpg

空港に到着したのが21時半頃だったから、こうして落ち着くまでにほぼ2時間費やしたことになります。
ホテルのWi-Fiを使って、妻にskypeで電話をかけました。今夜の雷雨のために、妻の公演も中止になったとのことで、すでに家に戻っていました。

空模様がおかしかったので、みんなで「雨よ降れ」と祈っていたらしい。笑
今夜の公演が中止になっても、ギャラには影響がないから、そんな空模様ではやる気がなくなったようです。
おかげでとんでもない夜になったと、愚痴の一つも言いたかったのですが、その元気もありませんでした。

「ねえ、今夜のうちにANAに電話して、明日のフライトの予約をした方がいいんじゃない?」
妻は提案してきました。もっともです。

このまま眠ってしまうと、おそらく午前5時に空港カウンターに出向くのは体力的にかなりきつい。
しかも、デュッセルドルフから日本への直行便はたしか、今夜乗り損ねたNH210以外にない。

フランクフルトあたりで乗り継げば、便数が多いので早く帰れるかもしれないが、トランジットのために、空港の固いイスで2時間も過ごすのはイヤです。一回飛行機に乗ったら、まっすぐ日本に帰りたい。
それにわたしは日系の航空会社が好きす。長いことヨーロッパにいると、日本式のサービスに飢えてもいます。

筋から言うと、遅延したオーストリア航空を通して手配するのでしょうが、乗りたいのはNH210です。
方法は2つだ。
空港カウンターに行くか、電話で済ませるかです。
早朝から空港に出かけて、列に並んで、20:00発のフライトを取るのは悲しい。運良く取れたとして、夜までの12時間をどうするのだ。
またタクシーでホテルに戻っても、正午まで眠るなんて不可能です。それに、乗り継ぎ便を覚悟で出向くとしたら、ホテルから荷物を持っていくわけで、そもそもそんな選択肢などないです。
「わかった。そうしてみる。」
ビールを飲み終えると、わたしは部屋に戻りました。部屋でPCを起動すると、妻からメールが入っていました。ANAの連絡先です。
音楽家でありながら、妻はこういう実務がおそろしく手早い。感謝しながら、手順を考えました。
まずは、skypeにクレジットカードからチャージをしないと今の残高では足りないはずだ。
ANAにつながったら、次のフライトの予約とホテル台・タクシー代の精算手続きをどうするかを確認する必要がある。

結局、ANAの窓口に電話がつながったのは、1時間半後でした。
どうせすぐにはつながらないことはわかっていたので、浴室のドアを開けたままにしてバスタブで身体をのんびりと伸ばしていたとき、電話がつながりました。

おもむろにバスタオルを身体に巻き、窓口の人と話しました。やはり、NH210が一番よいことがわかりました。
本来は遅延した航空会社が次のフライトは責任を持って手配するのが原則だが、ANAでもできますから、すぐにやりますとのこと。
座席も電話後10分もすれば、ネットから指定できるとのこと。また、請求はオーストリア航空にすることになるらしい。

こうしてフライト予約が完了して、ベッドに入れたのは午前3時でした。
skypeの料金は、ほぼ400円くらいでした。この程度で日本の窓口とやりとりできたのは、実にありがたいです。
チェックアウトは正午なので、ぎりぎりまで眠る気になれば、8時間は確保できる。
ちょっとばかりホッとできたせいか、あっという間に眠ってしまいました。

目が覚めたのは、午前8時40分でした。
遮光カーテンの隙間から入る朝日で、気がつきました。最初は自分がどこにいるのか、わかりませんでした。予定外の宿泊だったから、自分の境遇がうまく受け入れられなかったのだと思います。

画像5.jpg

すぐに簡単に身支度を調えて、朝食のレストランに向かいました。入り口で21ユーロの伝票にサインを求められました。宿泊料76ユーロのホテルとしては、決して安くありません。
しかし、腹は減っています。昨夜はビールを飲んだだけで、何も食べていません。
入り口の係は、わたしが日本人だと気づくと、「おはようございます」と挨拶してくれた。
さすが日本人が多い都市です。すぐに見分けがつくようです。
ごく普通のビュッフェで1時間ほどかけてゆっくりと食事をして、部屋に戻りました。
それから、やはりゆっくりと風呂に浸かりました。温かい湯に浸かるのは、本当にうれしい。

荷造りをしてチェックアウトをしたのは、正午きっかりでした。
フライトは、20:00
余裕をみて荷物のドロップオフをしたとしても、18:00で十分だろうと見当を付けました。
その前にオーストリア航空のカウンターに行って、宿泊費やタクシー代の交渉をする。
となると、待ち時間を含めて、16:00に着いていれば余裕だろう。暇があれば、ビールを飲みながら、kindleでも読んでいればいい。

そんな胸算用をして、午後はホテルのロビーでのんびりと読書をした。
「市場は物理法則で動く」 マーク・ブキャナン 白揚社 である。
ロードス島のビーチでも読んでいましたが、ぶ厚い書籍なので途中だったのです。
このホテルの場合、ロビーではコーヒーやお茶が無料なので、居心地もいい。ロケーション的に宿泊客以外あまり出入りしないホテルらしく、鷹揚です。

ほどよい頃に、タクシーを呼んでもらいました。空港まではやはり12ユーロでした。

空港では、まず、オーストリア航空のカウンターに向かいました。そして、昨日の経緯を話しました。搭乗券を提示したところ、昨日の遅延を係員はすぐに確認しました。

これで請求についても滞りなく手続きが出来ると思いました。
しかし、です。
「このカウンターは、オーストリア航空のチケットは扱っているが、もともとはルフトハンザが委託を受けて処理しているだけだ。こうした請求はオーストリア航空のカウンターでないと、できない。」
笑顔ではっきりと言い渡されました。

では、そのカウンターはどこにあるのかと問うと、この近くではウィーンだと言われた。
もちろん、直接行かなくても、電話かネット上の問い合わせフォームから連絡を取ればそれでも大丈夫なはずだ、とも付け加えた。
どっと、疲れがこみ上げてきましたが、どうしようもありません。
とにかくありがとう、と礼を言って、ANAのカウンターに向かいました。少し早いが、すでにチェックインが始まっているのを先ほど見かけていたのです。

ANAの係員に尋ねると、請求はやはりオーストリア航空に直接行う必要があるとのことでした。
これから乗る帰国便が成田着だったので、そのときに成田にあるオーストリア航空のカウンターで手続きが出来るかどうかを調べてもらいました。
しかし、NH210が到着する頃には、カウンターには誰もいないというのです。
つまり、出発便の仕事が完了すると、カウンターは基本的に無人になるらしい。
したがって、ネット上の問い合わせフォームを通して、搭乗券やホテル・タクシーの領収書をアップするしか方法はないということのようです。

係員は丁寧にいろいろと教えてくれました。
それをまとめると、次のようになります。

(遅延のとき)
・遅延があったとき、原則として遅延を起こした航空会社が次のフライトの手配を
 してくれる。

・レガシーキャリアならば、原則として宿泊の手配もやってくれる。
 つまり、自分で手配したり、請求したりする手続きも不要である。

・しかし、今回のように、もはや出発便がないような時間帯に到着した場合、次のフライトを確保するためには、自分でオーストリア航空に電話をかけるか、わたしがやったようにANAに電話をする必要がある。
翌日、カウンターに出向いても悪くないが、座席に余裕のない便の場合、翌日では取れないことがある。

・請求手続きは、ネットを通して行う航空会社が非常に多い。非常に面倒である。

というようなものでした。

個人旅行のウィークポイントが如実に表れていると思いました。
遅延があった場合でも、航空会社の職員がカウンターにいる時間であればまだいい。
しかし、今回のようにその時間からずれてしまったときには、対応は全部個人が負わなければならないのです。

添乗員がついているツアーであれば、こんな苦労はしなくてもすみます。
多少空港で待たされるであろうが、ビールでも飲んで愚痴を言っていればいい。

しかも今回、ANAでも処理できましたが、これが外国の航空会社だったなら前夜に速やかに手続きをしたいとなったら、英語で電話をしないといけないのです。無理ならば、翌日カウンターに行くしかない。
こうした負担はたいへんに大きいです。

また、やはり英語が出来ないとたいへんに不便なのである。
個人旅行を楽しもうというみなさん、英語はしっかり勉強しましょう。(笑)
と、まあ、これでは、ありきたりの感想です。実は、前はこの程度の感想だったのですが、今は少し違った見方になってきています。そのあたりは次回にお送りします。




nice!(0) 
共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。