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人生における労働の位置づけ 3 [日記・雑感]


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まずは数字で見ます。
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図1 国民1人当たりGDP=国民総生産÷人口


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労働生産性=GDP÷就業者数(または就業者数 × 労働時間)



悔しいことに、日本は明らかに欧米に負けています。
なんと、旧東欧諸国程度です。

 果たして、私が指摘した「消費者重視」「労働者の権利」というキーワードが決め手になっているかどうかはあいにく論証できませんが、働いている人に余計な負担をかけてその動きを妨げないようにしよう、という意識は共有化されています。
例えば、スーパーマーケットの商品陳列です。当地のスーパーはおおむね午前7時40分に開店です。私を含め、多くの買い物客が入店しますが、そのときに同時に店員たちが新しい商品を置くから運び入れ、陳列を行っています。日本ならば客の買い物の邪魔をしないように店員が配慮しますが、こちらでは客が店員の動きを妨げないように気をつけて行動します。店員のカートにうっかり気づかずにいると、「Achtung!」と声をかけられます。直訳すると「注意!」という意味ですが、要するに「そこをどいてください!」です。床磨きの機械で営業時間中に定期的に清掃をやっていますが、これも同様です。機械の音が聞こえたらその動きを予想して、彼の清掃を妨げないように客が移動します。慣れないうちは、「客をいったい何だと思っているのだ。」とムカッとしましたが、店員の仕事が円滑にできるように気をつけてあげましょうよ、ということなのですね。
 つまり、雇用者側がその権利を守るだけでなく、客の側も同様に配慮するわけです。

労働者の権利をきちんと認め、保護するために、そのかわり仕事の成果も厳しく問われます。したがって、仕事をするときはものすごく集中してこなし、それとともにプライベートも大切にするという意識が常識となっています。会社への忠誠心はありますが、それとプライベートの時間を割いてまで仕事をすることとは違うのです。オーストリアでは長時間仕事をすることが評価にはつながらず、遅くまで働いているとボスに「何をしているんだ?」と言われてしまいます。集中して時間内に仕事をこなすために物事の決定を早くして、現場のキーパーソンによってどんどん進められます。まとまった休みを年に合計5~6週間取得するのは普通のことです。知り合いのモンクレールの店員はつい店が暇になるこの時期に一ヶ月の休暇を取り、そのうち二週間はハワイで過ごすと言って出かけていきました。

別にみんながそのような贅沢な過ごし方をしているわけではありません。手軽な楽しみ方として、カフェで友人とおしゃべりをするというのがあります。
ウィーンのカフェは、カフェの一種として、2011年から世界無形文化遺産に登録されています。特徴は、滞在時間が長いことと、単にコーヒーを急いで飲むのではなく、社会的・社交的な側面があることです。老舗の喫茶店は、内装が上質で、時には文化的なプログラムもあることが多いです。伝統的な喫茶店は、モダンなカフェやコーヒーショップなどの他のタイプよりも明らかに好まれています。2017年末に行われた調査によると、ウィーン人の合計75%が月に1回以上、喫茶店やカフェを訪れ、8%の人はほぼ毎日でも訪れているそうです。ローテーションで休みを取っている人が多く、必ずしも土曜日日曜日がお休みではないため、平日の昼間からカフェにお客が多いというのもあります。

 また、サイクリングを趣味にしている人たちがものすごく多いです。アルプスの秘境からウィーンなどシティーコースまで、さまざまなコースがあり、週末には国内至る所がサイクリストで賑わいます。
主なものだけでも21もあり、舗装された平坦な自転車専用道路から上級者やマウンテンバイク向きの山岳道まで極めて多彩です。例えば、ブルーデンツを起点にドイツ側あるいはスイス側のボーデン湖畔を行く平坦なコース、ドナウ川に沿って整備された快適なサイクリング道を走る一番人気のポピュラーなコースなど多様な自然の景観を楽しめます。中には、ワイン酒場を周遊するコースなんてのもあります。

こうした国内各所のサイクリングロードに行くために、電車には自転車持ち込みができる車両が通常準備されています。また、地下鉄でさえ、朝夕の通勤時間帯を外せば自転車の持ち込みが許可されています。さらに、サイクリング・ホテルやレンタル、手荷物輸送サービスなども充実しています。
また、ウィーン中心部の通常の道路にも、自転車専用道が設定されていますから、自転車通勤もたいへん多くなっています。

自転車が好きな人たちは自分好みに仕上げた自転車に自分好みのウェアでまたがっています。通勤時間は実は趣味の時間でもあるようです。昨年ドイツ語学校に通っていたとき、もうすぐ60歳になるという女性の先生が、「私の趣味は自転車です」といっていて、ときどき自転車でも職場に通っていました。

市庁舎の広場で自転車の「のみの市」が時々開催されますが、かなりの人たちが集まります。

不要になった自転車を持ち込み、思い思いの価格を付けて販売しています。売却できた場合、販売価格の一定割合を手数料として主催団体に支払う仕組みになっています。付けている値札も、各人が準備した適当なボール紙にマジックペンで書き込んで、自転車にぶら下げています。笑










しかも、「この自転車、どう見ても、このままでは走れないだろう?」というものさえ持ち込まれています。買ってもどうするのだろうといぶかしく見ていましたが、よくしたもので会場内には修繕してくれる業者もブースを構えていました。もちろん、自宅に持ち帰り自分のガレージで直す人も多いのでしょうが、会場で直してもらい、そのまま乗って買えることも出来るのですね。ただ、意外なことに動きそうもないオンボロを自分で持ち帰る人たちが珍しくなかったのが印象的です。自分で直したり、部品取りに使ったりするのがごく一般的なのでしょうね。そういえば、ホームセンターで販売しているDIYの道具が、ほとんどプロ仕様のものばかりなのに、普通のおじさんが購入していますから、特別なことではないようです。

なお、昨年の東京オリンピックでオーストリアの女子選手が金メダルを獲得しました。
世界ランキング94位のオーストリア代表アナ・キーゼンホファーという選手です。
94位という数字から番狂わせと言われましたが、それ以上に興味深く扱われたのが「数学者」という職業です。
 本職を別に持つ選手が国内代表に選ばれるだけの練習が出来る余裕が社会全体にあります。日本でも実業団の選手がオリンピック代表選手に選ばれるのは珍しくありませんが、彼らは「会社員」ではあっても実体は競技のセミプロです。それにひきかえ、彼女は2018年以降プロ契約を結んでおらず、コーチもスタッフもいないし、食事の管理やトレーニングの計画なども自身で行ってきています。冬季オリンピックはともかく、夏季オリンピックではまったく振るわないヨーロッパの山間の小国オーストリアですが、自転車は競技人口の裾野の広い国です。必ずしもあり得なくはなかったと思っています。と同時に、人をひたすら労働のみに縛り付けない「労働者の権利」意識が社会に共有されていたことの影響をどうしても思わずにはいられないのです。
 これと似たようなことが妻の本職の音楽にもあります。一緒に働く同僚たちの中には、警察官、学校の教師、不動産管理業者、タクシー運転手など他に職業を持っている者がたくさんいると聞きました。中には、それらを辞めて音楽を本職とすることになったり、逆に音楽よりも別の仕事の比重が増えて、音楽の仕事は控えるようになったりと、非常に流動的です。
やってみてよければ転職、ダメなら次を探そう、という身軽さを許容する社会でもあると言ってよいかと思います。

 日本の「消費者保護」それ自体は決して悪いことではなく、むしろ「労働者の権利」との二項対立にすべきではないと前に書きましたが、それにしても、労働にまつわることをもっと明るく、軽く、さわやかにしていければ、日本もかなり違ってくるのではないかと思います。残念ながらさらなる具体策は提示できないのですが、まずはこのようなことを考えています。













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